
PubMedの資料に基づく | 多発性硬化症で息切れが生じるのはどのような原因によるもので、どの程度一般的で、受診の目安となる危険サインは何ですか?
MSの息切れは、脳幹病変による呼吸制御障害、呼吸筋の弱り、球麻痺・誤嚥、睡眠時無呼吸、肺炎や肺塞栓など複数要因が重なって起こります。全体として一般的ではないものの、進行例や再発期、脳幹病変のある人で目立ちます。突然の強い息切れ、チアノーゼ、意識障害、胸痛・血痰、発熱を伴う呼吸困難、夜間の無呼吸は早急な受診のサインです。
多発性硬化症(MS)で息切れ(呼吸困難感)が起こる原因はひとつではありません。一般的には、脳幹や脊髄の病変による呼吸の中枢・神経伝達の障害、呼吸筋(横隔膜や肋間筋など)の筋力低下、嚥下や発声に関わる球麻痺の影響、睡眠時無呼吸などの睡眠関連呼吸障害、さらに肺炎や肺塞栓などの合併症が重なって生じることがあります。こうした要因は、MSの病期や病変の部位、活動性(再発中かどうか)によって異なり、同じMSでも人によって現れ方はさまざまです。 [1] [2] [3] [4] [5]
原因の整理
- 神経中枢の障害
- 呼吸筋の弱り(筋力低下)
- 球麻痺・嚥下障害
- 嚥下や発声に関わる筋の障害で誤嚥が起こると、吸引性肺炎のリスクが上がり、呼吸困難の原因になります。MS症例でも球麻痺に伴う誤嚥性肺炎が報告されています。 [1]
- 睡眠関連呼吸障害
- MSは閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)や中枢性無呼吸の素因があり、特に脳幹病変のある方で、無呼吸低呼吸指数(AHI)や中枢性無呼吸指数(CAI)が高い傾向が示されています。睡眠中の無呼吸は日中の息切れや疲労感にもつながります。 [4]
- 他疾患の合併・見逃した原因
- 感染症(肺炎)、肺塞栓、心不全、COVID-19などはMSに限らず息切れの頻度が高い重大原因で、突然悪化した呼吸困難では常に鑑別が必要です。 [5]
どの程度一般的か
MSの呼吸合併症は「進行した症例や重い再発時」に目立ちやすい一方で、比較的早期から現れることもあります。過去の臨床報告では、発症から平均約6年頃に呼吸合併症を生じた一群が示され、呼吸筋弱り・球麻痺・呼吸制御障害・睡眠時無呼吸などが確認されています。重症例では一時的または長期の呼吸補助が必要になるケースもありました。こうしたデータは重症例の集積であり、MS全体でみると呼吸不全は「一般的ではないが、見過ごせない合併症」と位置づけられます。 [1]
また、横隔膜・呼気筋などの筋力指標(PEmax、MVV)は、歩行可能な軽症群では概ね保たれ、車椅子生活や四肢麻痺が進んだ群で低下が目立つ傾向が報告されています。つまり、身体障害度が上がるほど呼吸筋弱りの頻度が増えると解釈されます。 [3]
睡眠時無呼吸は、MSの紹介患者の検査群で平均AHIと中枢性無呼吸指数が対照群より高い傾向が示され、特に脳幹病変のある方で顕著でした。これはMS集団で睡眠関連呼吸障害の「素因があり得る」ことを示唆します。 [4]
受診の目安となる危険サイン
次のようなサインは、緊急受診や早めの評価の目安になります。MSそのものの影響に加え、肺塞栓や肺炎などの重篤な原因が隠れている可能性にも注意が必要です。 [5] [1]
- 突然の強い息切れ、安静でも息が上がる、会話が途切れるほどの呼吸困難(急性発症・急速な悪化)
- 胸痛や片側の胸の違和感、血痰、失神傾向を伴う場合は肺塞栓を疑い緊急対応が必要です。 [5]
- チアノーゼ(唇や爪が紫っぽい)、意識混濁、極端な眠気・覚醒困難(低酸素・高二酸化炭素の徴候)
- 発熱・悪寒・膿性痰・胸痛を伴う息切れ(肺炎を示唆)
- 夜間の激しいいびき、睡眠中の呼吸停止を家族に指摘される、起床時の頭痛・過度の昼間の眠気
- 睡眠時無呼吸の疑いがあり、検査を検討します。 [4]
- 再発後に声が弱い・むせる・飲み込みにくいなどの球麻痺症状と同時に息苦しさが増す
- 誤嚥や吸引性肺炎のリスクがあり、早期評価が望まれます。 [1]
- せき込めない、痰が出せない、息を長く吐けないなど「咳・呼気の弱さ」を自覚
検査と評価のポイント
- 肺機能・呼吸筋評価
- 1秒量や肺活量などのスパイロに加え、最大随意換気(MVV)、最大吸気圧(PImax)、最大呼気圧(PEmax)などの呼吸筋指標が、微妙な筋力低下の把握に役立ちます。臨床的な「咳の強さ」「痰の切れ」「一息で数を数えられる長さ」などの観察所見は、呼気筋弱りの良い予測因子になり得ます。 [2]
- 睡眠検査
- 脳幹病変や夜間症状がある場合は、ポリソムノグラフィー(PSG)で閉塞性・中枢性成分を評価します。 [4]
- 画像・血液検査
- 急性悪化時は肺塞栓、肺炎、心不全などの除外のため、Dダイマー・心筋マーカー・胸部画像(CT含む)を考慮します。 [5]
- 嚥下評価
- むせ・誤嚥疑いがあれば嚥下内視鏡やVFで評価し、誤嚥性肺炎の予防につなげます。 [1]
予防と対策
- 呼吸リハビリ・筋力維持
- 適度な有酸素運動と呼吸筋トレーニング(横隔膜呼吸、呼気抵抗トレーニングなど)は、無理のない範囲で筋力維持に役立ちます。身体症状に合わせて専門職と運動強度を調整しましょう。 [3]
- 咳介助・分泌物管理
- 咳が弱い場合、呼吸理学療法や咳介助、体位排痰などで痰のクリアランスを支えます。感染予防が重要です。 [2]
- 睡眠時無呼吸の治療
- OSAにはCPAPなどの陽圧療法、中枢性無呼吸には病態に応じた設定・治療を検討します。脳幹病変がある場合は特に慎重な管理が必要です。 [4]
- 再発時の迅速対応
- 急性再発で呼吸・嚥下に影響が出たら、ステロイド療法や必要に応じた血漿交換などの再発治療に加え、呼吸管理を同時に整えます。 [1]
- 合併症の早期発見
- 発熱・急激な息切れ・胸痛などの危険サインを見逃さず、早めに医療機関へ相談します。 [5]
まとめ
- MSの息切れは、呼吸の神経制御障害、呼吸筋の弱り、球麻痺・誤嚥、睡眠時無呼吸、感染や塞栓などの合併が組み合わさって生じることが多いです。こうした要因は病変部位(特に脳幹)や障害度に影響されます。 [1] [4] [3]
- 頻度は全体として「一般的とまでは言えない」が、進行例・再発期・脳幹病変のある方で目立ちやすく、睡眠関連呼吸障害の素因も示唆されています。 [1] [4]
- 突然の強い息切れ、チアノーゼ、意識障害、胸痛・血痰、発熱を伴う呼吸困難、夜間の無呼吸などは危険サインで、緊急受診や早期評価の目安になります。 [5] [1]
この中で心当たりのある症状やタイミング(安静時か、再発期か、夜間中心か)を教えていただけますか?
関連する質問
出典
- 1.^abcdefghijklmRespiratory involvement in multiple sclerosis.(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- 2.^abcdeRespiratory function in multiple sclerosis. Utility of clinical assessment of respiratory muscle function.(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- 3.^abcdefPulmonary function and dysfunction in multiple sclerosis.(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- 4.^abcdefghiSleep-disordered breathing in multiple sclerosis.(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- 5.^abcdefghiRespiratory Failure(medlineplus.gov)
ご注意: この情報は教育目的のみで提供されており、専門的な医療アドバイス、診断、または治療に代わるものではありません。医療上の決定を行う前に、必ず資格のある医療提供者に相談してください。


