
WHOの資料に基づく | 軟部肉腫の症状として体重減少はどれくらい一般的で、どのような機序で起こりますか?
要点:
軟部肉腫では体重減少は早期には一般的ではなく、病勢が進行すると出現しうる全身症状です。がん全体では10%以上の体重減少が約3~4割にみられ、炎症性サイトカインによる食欲低下、安静時代謝の亢進、脂肪・筋タンパク分解が進む悪液質が主な機序です。
軟部肉腫における体重減少の頻度と機序
軟部肉腫でみられる体重減少は、早期では必ずしも一般的ではありませんが、進行すると出現しうる全身症状の一つです。一般的ながん患者全体では、臨床的に意味のある体重減少(通常体重から10%以上)が約3~4割でみられ、腫瘍の部位・病期・全身状態(ECOG)・食欲低下の有無と強く関連します。 [1] 早期の軟部肉腫では無症状のことが多い一方、進行例では「食欲低下や体重減少」が症状として挙がります。 [2] また、肉腫全般の症状として「体重減少」が列挙されることがあります。 [3] [4]
どれくらい一般的か(頻度の目安)
- がん患者全体の外来大規模調査では、平均体重減少は約7%、10%以上の体重減少は約38%に達しました。これは軟部肉腫に特有ではなく、固形腫瘍全般の傾向です。 [1]
- 軟部肉腫に限ると、初期段階では症状が乏しく、体重減少は「進行してから現れることがある症状」の一つです。 [5] [2]
- 肉腫のタイプ別の一般的説明でも、「体重減少」が症状に含まれることがありますが、頻度を厳密に示すデータは限られています。したがって、体重減少は“あり得るが必発ではない”症状と解釈されます。 [3] [4]
体重減少の主な機序(がん悪液質のしくみ)
がんに伴う体重減少の中心は「悪液質(cachexia)」です。悪液質は、食事量を増やしても元に戻りにくい、脂肪と骨格筋の進行性の消耗を伴う症候群です。 [6]
炎症性サイトカインと食欲抑制
- 腫瘍や宿主の組織から分泌される炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6、TNF-αなど)が視床下部に作用し、食欲を抑えるシグナル(プロオピオメラノコルチンの優位化)を強め、食欲低下(がん性食欲不振)を引き起こします。 [7]
- これらのサイトカインは全身の代謝変化(急性期反応など)も誘導し、栄養を摂っても体組成が回復しにくい状態につながります。 [8]
代謝の非効率化(安静時エネルギー消費増加)
- 骨格筋で「脱共役タンパク質」の発現が増加し、熱産生(サーモジェネシス)が亢進して、安静時でもエネルギー消費が増えます。 [6]
- 腫瘍組織の低酸素でHIF-1が活性化し解糖が亢進、乳酸蓄積からコリ回路(肝で乳酸→ブドウ糖化)が過度に回るため、エネルギー効率が悪化します。 [7]
脂肪組織の消耗(リポリシス)
骨格筋の消耗(タンパク質分解の亢進)
- 筋タンパク質の合成低下(翻訳開始因子eIF4Fの低下、伸長過程の抑制、eIF2αのリン酸化)と、分解亢進(ユビキチン-プロテアソーム系・リソソーム系の活性化)が同時に進みます。 [6]
- 腫瘍由来のプロテオリシス誘導因子(PIF)、宿主のTNF-α・アンジオテンシンII・グルココルチコイドなどがNF-κB活性化やROS増加、FOXO転写因子、ミオスタチンを介して筋萎縮を促進します。 [6] [7]
- このため、単なる飢餓とは異なり、栄養補給だけでは筋量の回復が難しい特徴があります。 [9]
治療・検査・病勢と体重の関係
- 頭頸部・体幹の軟部肉腫で、手術・放射線療法・アドリアマイシン/シクロホスファミド化学療法のそれぞれの期間に有意な体重減少が観察された報告があります(メトトレキサートでは明確ではない)。 [10]
- 長期追跡では、病勢が進行する群でより顕著な栄養障害(体重、総タンパク、アルブミン、リンパ球数の低下)がみられ、治療そのものよりも進行した腫瘍活動性が影響している可能性が示されています。 [10]
- 外来がん患者全体では、上部消化管系腫瘍、進行病期、パフォーマンス低下、食欲不振の重症度が体重減少と密接に関連します。 [11]
臨床的な見分け方と注意点
- 早期の軟部肉腫は「痛みのないしこり」など局所症状が中心で、体重減少は進行のサインとして併発しうると理解されます。 [5] [2]
- 肉腫や固形がんの説明で「体重減少」が症状として挙げられる場合でも、個々の患者での出現には幅があり、頻度は病勢と部位・治療影響に依存します。 [3] [4]
- がん悪液質では「食欲不振+代謝異常+筋脂肪の消耗」が組み合わさるため、単純な栄養補給だけでは十分な改善が得られないことが多い点に注意が必要です。 [6] [9]
まとめ
- 軟部肉腫の体重減少は、早期では一般的とは言い切れず、進行とともに現れやすくなる全身症状の一つです。 [5] [2]
- がん全体では、約3~4割が10%以上の体重減少を経験し、食欲不振や全身炎症、代謝の非効率化、脂肪・筋タンパクの分解亢進といった悪液質の機序が中心となります。 [1] [7] [6]
- 治療過程で一過性の体重減少が起こり得ますが、長期的には病勢進行が栄養障害の主因になりやすいと考えられます。 [10]
関連する質問
出典
- 1.^abcWeight loss in cancer patients: a plea for a better awareness of the issue.(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- 2.^abcdSymptoms(stanfordhealthcare.org)
- 3.^abcSymptoms and causes - Mayo Clinic(mayoclinic.org)
- 4.^abcLeiomyosarcoma - Symptoms and causes(mayoclinic.org)
- 5.^abcSymptoms(stanfordhealthcare.org)
- 6.^abcdefgMechanisms of cancer cachexia.(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- 7.^abcde[Systemic and local mechanisms leading to cachexia in cancer].(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- 8.^↑Mechanisms of cancer cachexia.(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- 9.^abCancer cachexia.(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- 10.^abcNutritional effects of surgery, radiation therapy, and adjuvant chemotherapy for soft tissue sarcomas.(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- 11.^↑Screening the nutritional status in oncology: a preliminary report on 1,000 outpatients.(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
ご注意: この情報は教育目的のみで提供されており、専門的な医療アドバイス、診断、または治療に代わるものではありません。医療上の決定を行う前に、必ず資格のある医療提供者に相談してください。


