
WHOの資料に基づく | 精巣腫瘍に伴う症状として動悸が現れることはありますか、起こる場合に考えられる原因や受診の目安は何ですか
要点:
精巣腫瘍の典型症状に動悸は含まれませんが、高β-hCGによる甲状腺機能亢進、術後の交感神経反応、パラネオプラスティック症候群などで動悸が生じることがあります。胸痛・息切れ・失神を伴う強い動悸は救急受診の目安で、精巣のしこりや腫れ、繰り返す動悸がある場合は泌尿器科受診と心血管・甲状腺機能、β-hCGの評価を検討します。
概要
精巣腫瘍(精巣のがん)そのものの典型症状は「片側の精巣のしこり・腫れ」「陰嚢の重さ」「鼠径部や下腹部の鈍痛」「陰嚢の急な腫れ」「精巣や陰嚢の痛み」「背部痛」「乳房の腫れや痛み(女性化乳房)」などで、一般的には動悸(心拍が速くなる・ドキドキする)は主症状ではありません。 [1] ただし、いくつかの機序では動悸が「随伴症状」として起こり得ます。 [2]
動悸が起こり得る主な機序
1. β-hCGによる甲状腺刺激(腫瘍関連甲状腺機能亢進)
- 一部の胚細胞腫瘍(特に絨毛癌や非セミノーマ)では、腫瘍がヒト絨毛性ゴナドトロピン(β-hCG)を高濃度で分泌します。 [3]
- 高度なβ-hCG上昇は甲状腺を刺激して甲状腺ホルモン(T4/T3)を過剰にさせ、甲状腺機能亢進症(甲状腺中毒症)を招きます。 [2]
- 甲状腺機能亢進では頻脈・動悸・高血圧・体重減少・発汗過多などがみられ、β-hCG値とT4が相関することが報告されています。 [2]
- 症例報告でも、精巣胚細胞腫に伴う著明なβ-hCG上昇と甲状腺機能亢進により、胸痛・動悸・呼吸困難・体重減少などが生じた例が示されています。 [4]
2. 治療・術後反応による交感神経過活動
- 後腹膜リンパ節郭清(RPLND)などの手術後に、カテコールアミン(エピネフリン/ノルエピネフリン/ドーパミン)が一過性に増加し、数日間持続する頻脈(動悸)を来すことがあります。 [5]
- これは術後の交感神経刺激が主因で、腫瘍そのものの直接作用ではありません。 [5]
3. パラネオプラスティック症候群(自律神経系への影響)
- がん随伴の免疫反応が自律神経系を障害すると、心拍数や血圧の異常(不整脈・低血圧・呼吸困難など)を呈することがあります。 [6]
- こうした神経系のパラネオプラスティック症候群は多くのがんで報告され、症状が他疾患と類似するため注意が必要です。 [7]
精巣腫瘍の一般的症状と動悸の位置づけ
- 精巣腫瘍の「よくある症状」は精巣・陰嚢に限局した変化(しこり、腫れ、重さ、痛み)や背部痛、乳房組織の拡大などで、呼吸器や腹部、乳房などの症状も記載されています。 [1]
- 動悸は標準的な「主要症状」ではありませんが、上記のような「内分泌(β-hCG)」「術後交感神経反応」「神経系パラネオプラスティック」などの経路で二次的に出現することがあります。 [2] [5] [6]
受診の目安(いつ受診すべきか)
すぐ受診・救急受診の目安
- 強い動悸が休んでも治まらない、胸痛・息切れ・めまい・失神を伴う、不整脈感がある場合。こうした症状は緊急性があり心血管系評価が必要です。 [6]
- 動悸に加え、片側精巣の腫れ/硬いしこり/陰嚢の急な腫れ、または乳房の腫れや痛みが続く場合は、精巣腫瘍の可能性を考えて速やかに泌尿器科へ。 [1]
近いうちに受診すべき目安
- 動悸が繰り返し出現し、体重減少・発汗過多・手の震え・不眠など「甲状腺機能亢進」を疑うサインがある場合は、内分泌評価(TSH、遊離T4/T3)と腫瘍マーカー(β-hCG)の測定を相談しましょう。 [2]
- 精巣の違和感が2週間以上続く、形や硬さが変わる、鈍痛が続く場合は検査(身体診察、超音波、腫瘍マーカー)を受けましょう。 [1]
診断・検査のポイント
- 腫瘍マーカー:β-hCGは胚細胞腫瘍の管理に有用で、一部の精巣腫瘍で分泌されます。 [3]
- 甲状腺機能:高β-hCG症例ではT4/T3の上昇(TSH低下)を伴う「腫瘍関連甲状腺機能亢進」が一定頻度でみられ、T4とβ-hCGが相関します。 [2]
- 心血管評価:持続する頻脈・動悸がある場合、心電図・ホルター心電図・電解質・甲状腺機能・貧血評価などを行い、原因を層別化します。 [6]
- 画像診断:精巣超音波は初期評価の基本で、必要に応じてCT/MRIで病期評価を行います。 [8]
治療と予後に関する一言
- β-hCGに伴う甲状腺機能亢進による動悸は、原発腫瘍の制御(手術や抗がん剤)により甲状腺機能が正常化することが一般的です。 [2]
- 術後の頻脈は一過性のカテコールアミン過剰によることがあり、時間とともに改善します。 [5]
- 精巣腫瘍は早期発見・適切治療により予後が良好なことが多く、気になる症状があれば早めの受診が大切です。 [8]
まとめ
- 精巣腫瘍の典型症状に動悸は含まれませんが、高β-hCGによる甲状腺機能亢進、術後の交感神経反応、神経系のパラネオプラスティック症候群などの理由で動悸が出ることがあります。 [1] [2] [5] [6]
- 胸痛や息切れを伴う強い動悸は救急受診の目安です。 [6]
- 精巣のしこり・腫れ・痛み、乳房の腫れが続く場合は早めに泌尿器科へ、動悸が繰り返すなら心血管評価とともに甲状腺機能・β-hCGのチェックを相談しましょう。 [1] [2] [8]
参考となる主な症状リスト(簡易)
- 精巣腫瘍の主症状:片側精巣のしこり・腫れ、陰嚢の重さ、鼠径部・下腹部の鈍痛、陰嚢の急な腫れ、精巣や陰嚢の痛み、乳房の腫れや痛み、背部痛。 [1]
- 動悸の背景:甲状腺機能亢進(高β-hCG)による頻脈、高度交感神経刺激(術後)、自律神経系の障害(パラネオプラスティック)。 [2] [5] [6]
ご自身の動悸の頻度や強さ、精巣の変化(しこり・腫れ)の有無、体重減少や発汗などを教えていただけますか?
関連する質問
出典
- 1.^abcdefgSymptoms and causes - Mayo Clinic(mayoclinic.org)
- 2.^abcdefghijHyperthyroidism in men with germ cell tumors and high levels of beta-human chorionic gonadotropin.(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- 3.^abUse of serum beta-chain human chorionic gonadotropin in the management of testis tumor.(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- 4.^↑Hyperthyroidism as a clinical manifestation of a embryonal carcinoma of the testis.(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- 5.^abcdefCatecholamine excess: probable cause of postoperative tachycardia following retroperitoneal lymph node dissection (RPLND) for testicular carcinoma.(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- 6.^abcdefgParaneoplastic syndromes of the nervous system - Symptoms and causes(mayoclinic.org)
- 7.^↑Paraneoplastic syndromes of the nervous system - Symptoms and causes(mayoclinic.org)
- 8.^abcTesticular cancer - Diagnosis and treatment(mayoclinic.org)
ご注意: この情報は教育目的のみで提供されており、専門的な医療アドバイス、診断、または治療に代わるものではありません。医療上の決定を行う前に、必ず資格のある医療提供者に相談してください。


